【博士論文】
〇2011年 博士論文「行政組織の再編事例の比較政治学的研究:BSE事件・薬害エイズ事件後の各国の組織再編を事例として」中央大学
本論では、政治的スキャンダルや喫緊の行政課題が生じたときに、どのような条件なら行政組織の再編成・改革が行われやすいかについて実証的な国際比較を行った。事例としては、多くの先進国で同時期に政治問題化した薬害エイズ事件・BSE事件を取り上げ、両事件後の日本・フランス・ドイツ・イギリス・カナダの5か国の行政組織の再編成・改革を評価し、その違いを生んだ条件について複数の6つの仮説を提示し検証を行った。
【査読付き論文】
〇2002年「Learning from Tainted Blood Scandals: A Comparison of Japan, France and Germany」『総合政策研究』9号 中央大学総合政策学部(Steven R.Reedとの共著)
p.57~69【査読あり】
薬害エイズ事件は、各国の行政府が自国の製薬業界に配慮した判断を行い、それが誤っていたという点で、多くの国で類似点が見られた。しかし、日本とフランスドイツでは、その政治的、司法的措置に多くの相違点が見られた。本論ではその相違を生んだ条件について6つの仮説を提示し検証を行った。その結果、法制上の権限者と事実上の決定権者の距離、情報公開制度の有無、一貫した有力野党の存在の有無等が影響しているとの結論を得た。
〇2020年「東京都における区市町村長の職歴の変遷について;1975年の区長公選制開始から現在まで」『地方政治研究・地域政治研究』6号 日本政治学会・日本地域政治学会p.13-22【査読あり】
本論では、特別区長の公選が開始された1975年以降の特別区長の職歴の変遷をまとめ、全国の市長、都内の市長・町村長との比較を行った。その結果、かつては9割を超えた区役所職員出身の区長の割合が2割にまで減少し、都議会議員出身の区長が最多になっていること等が確認された。また、国会議員出身の区長が複数誕生する一方で、全国市長の一定割合を占める中央省庁出身の区長は誕生していないなどの特別区の地域特性が確認された。
〇2022年「東京都議会における議長・副議長選挙の研究―投票時の会派構成と選挙結果の関係及び就任者の職歴を中心として―」『日本政治法律研究』4号 日本政治法律学会p.249-268【査読あり】
都議会における議長・副議長人事は、「慣例としてそれぞれ第一党・第二党から全会一致で選ばれる」と説明されてきた。しかし本論で、1965年以降に都議会で行われた議長・副議長選挙の結果を確認したところ、状況に応じ多様な投票行動が行われていることが確認された。また、実際に議長・副議長に就任した議員の会派内・議会内の役職歴、当選回数等を確認したところ、会派により候補者の選出過程に興味深い相違が確認された。
〇2023年「関係法令の改正と新たに任命される教育長の職歴の相関関係について ―東京都23特別区の教育長人事を事例として―」『地方行政実務研究』 6号 地方行政実務学会 p.36-44【査読あり】
1947年以降、合併や分割が行われていない東京都23特別区を対象として、関係法令の改正が基礎自治体の教育長人事に与えた影響について時系列分析を行った。具体的には、教育長の職歴を、①区役所職員出身、②教員系出身、③その他の職歴に分け、近年の3つの関係法令の改正(⑴任命承認制度の廃止、⑵収入役の廃止、⑶新教育長制度)が、新たに任命される教育長の職歴の割合にどのような影響を与えたか、について仮説を提示し、検証を行った。また、実際に任命された教育長の具体的な職歴についても調査し考察を行った。
〇2024年「収入役ポストの廃止が基礎自治体の特別職人事に与えた影響の検証について ー東京都23特別区の特別職人事を事例としてー」 『日本政治法律研究』6号 日本政治法律学会(in printing)【査読あり】
本論では、かつて首長、助役(現・副市区町村長)と並び、基礎自治体の中で「三役」と呼ばれていた収入役の廃止が、基礎自治体の特別職人事に与えた影響について検証した。事例としては、東京都の23特別区を対象とし、1995年から2007年までの期間に23特別区で任命された全ての収入役の職歴を確認するとともに、同期間に23特別区で任命された助役の職歴との比較検討を行った。その後、三つの仮説を提示し、23特別区で1995年から2022年までの間に就任した区長、助役・副区長の職歴や任命数の変化等をもとに検証を行った。
【論文】
〇2000年「首都からの政府機関移転の実施に関する比較政治学的研究―英・仏・独スウェーデンの事例を対象として」『大学院研究年報 総合政策研究科篇』4号 中央大学大学院 p.3~12【査読なし】
先進国において、首都からの政府機関の移転が計画された事例は日本も含め一定存在する。しかし、その中には、計画後における政権交代や、財政状況の悪化、中央省庁の反対等により、当初の計画が整理・縮小された事例も多い。本論では英・仏・独・スウェーデンの4か国における7つの政府機能移転計画を対象とした比較研究を行い、財政状況の悪化が計画の整理・縮小につながりやすい等の結論を導き出した。
〇2001年「オーストリアの自由党を事例とした極右政党の得票率に関する一考察」『大学院研究年報 総合政策研究科篇』5号 中央大学大学院p.3~12【査読なし】
本論では、オーストリアで外国人排斥を唱え、ヨーロッパで増えつつある極右政党の一つとされる自由党の国政選挙における相対得票率について統計分析を行った。その結果、自由党が、大連立を続けてきた既成の二大政党への不満の受け皿となっている点、オーストリアの失業率と自由党の相対得票率に正の相関関係がある点、既存の保守系政党(国民党)に失望した層が自由党に投票していると思われる点等の興味深い分析結果が確認された。
〇2002年「BSE事件後の行政組織の再編についての一考察―英国における食品基準庁及び日本における食品安全委員会の設置を中心として」『大学院研究年報 総合政策研究科篇』6号 中央大学大学院p.3~11【査読なし】
本論ではBSE事件後における、英国における食品基準庁の設置と、日本における食品安全委員会の設置事例の比較を行い、保健省(英)・厚生労働省(日)と、農漁食料省(英)・農林水産省(日)からの両組織への権限移管の状況や意思決定のプロセスについての比較を行っている。また、薬害エイズ事件とBSE事件について、製薬業界や農業関連団体に配慮した行政の不作為によって被害が拡大したこと等の類似点の指摘を一早く行っている。
〇2004年「イギリスの地方税について」『東京税務レポート』第459号(2004年7月)財団法人東京税務協会p.54~58【査読無し】
日本では「地方自治の母国」と紹介されているイギリスだが、地方自治体の自主財源に当たる地方税は、日本の固定資産税に類似した一つの税目のみとなっており、その存在自体もしばしば保守党・労働党間の政争のタネとなっている(サッチャー政権における人頭税の導入など)。また、全租税収入に占める地方税の割合も一割以下となっている。本論ではこうしたイギリスの地方税をめぐる状況について、他の先進国と比較しながら紹介している。
〇2004年「ロンドンの道路混雑税(Congestion Charge)について」『東京税務レポート』第460号(2004年9月)財団法人東京税務協会p.68~74【査読無し】
大ロンドン市は、2003年に同市の中心地域に進入する車両に対する道路混雑税(Congestion Charge)の課税を決定した。同税を推進したケン・リビングストン市長は、ロンドンの渋滞緩和と公営バス・地下鉄の民営化反対を公約して2000年の市長選で当選しており、同税の実施に至る過程には興味深い点が多い。本論では、道路混雑税の導入・実施の過程や2004年の同市長の再選までの政治状況を紹介している。
〇2005年「スコットランド自治財政権について」『東京税務レポート』第462号(2005年1月)財団法人東京税務協会p.65~71【査読無し】
1997年にイギリスで誕生した労働党のブレア政権は、地域への「権限移譲」を公約に誕生しており、住民投票の結果、スコットランドの「国会(Parliament)」に当たるスコットランド議会の設置が決定された。その住民投票では増税につながる可能性もある同議会への課税権の付与にも大多数の住民が賛成し注目された。本論ではスコットランド議会設置までの経緯や同議会の自治財政権の状況について紹介している。
〇2005年「ロンドンの広域自治体の歴史について(上)」『東京税務レポート』第465号(2005年7月)財団法人東京税務協会p.98~105【査読無し】
成文の憲法典が存在しないイギリスでは、日本国憲法の定める「地方自治の本旨」に反するような制度改正も国会の過半数の議決のみで決定される。本論では、日本の東京都庁に相当する「大ロンドン都(Greater London Council)」が、保守党のサッチャー政権により1
986年に廃止され、その後14年間にわたり、事務を引き継いだ100を超える数の非政府公的機関による非効率な広域行政が行われていたこと等を紹介している。
〇2006年「ロンドンの広域自治体の歴史について(下)」『東京税務レポート』第467号(2006年1月)」財団法人東京税務協会p.99~103【査読無し】
サッチャー政権による「大ロンドン都(Greater London Council)」の廃止後、100を超える非政府公的機関がロンドンの広域行政・事務を継承した。しかし、公選による最終責任者が不在の中、権限・事務の複雑・錯綜化が進み、1998年に行われた住民投票では72%の市民が、ロンドン全体を所管する組織の復活を希望した。本論ではそれらの過程や2000年に設置された「大ロンドン市(Greater London Authority)」について紹介している。
〇2006年「寄付促進税制について―民間が担う公共を支える税制―」『東京税務レポート』第469号(2006年7月)財団法人東京税務協会p.78~87【査読無し】
本論では、日本の所得税・住民税の寄付金控除制度の概要とその問題点を指摘した上で、NPO法人等の公共的活動を支えるための寄付金控除手続の明確化、またインセンティブの必要性について提案を行っている。また、ハンガリー等の旧東欧諸国で導入されている納税額の1~2%を自己の指定するNPOや教会組織の事業への寄付に用途を指定できる「パーセント法」や、市川市等の住民税の納税を通じたNPO支援の取組事例を紹介している。
〇2006年「ドイツの教会税(Kirchensteuer)について」『東京税務レポート』第470号(2006年10月)財団法人東京税務協会p.98~105【査読無し】
ドイツでは、憲法に相当する基本法で、カトリックや福音主義教会等の宗教団体に対し特区別な法的地位を認めており、その信徒に対して課される「教会税(Kirchensteuer)」についても州政府が賦課・徴収を担っている。ドイツの宗教団体は歴史的にも福祉や教育等の公的な役割を果たしてきたが、価値観の多様化が進む中、教会税の制度に疑問を持つ市民が増え、同税は岐路に立たされている。本論では教会税の制度や近年の流れを紹介している。
〇2024年「保健所設置市が多数ある都道府県の行動様式について ー東京都・神奈川県・千葉県の新型コロナ対応を中心としてー」『ジュリタスコンサルタス』第30号(in printing)【査読無し】
政令指定都市や中核市の新設に伴う保健所設置市の増加により、近年、保健所設置者が県庁のみの県は激減している(1947年・28県→2023年・2県)。本論では、一都二県の新型コロナ対応を事例に、「都道府県が保健所の一設置者としての立場をとり、域内全体を考慮しない傾向が生まれているのではないか」について検証を行った。事例が三都県と少数ではあるものの、政令指定都市の有無がこうした傾向に影響を与えている可能性が確認された。
【翻訳】
〇2008年「日本における政治改革 / スティーブン・R・リード 著」曽根泰教・大山耕輔編著「日本の民主主義:変わる政治・変わる政治学」慶應義塾大学出版会 所収p.281-308
[原著]Steven R.Reed (1994)Political reform in Japan: combining scientific and historical analysis Social Science Japan Journal 2(2)177-193
日本における1994年の「政治改革(選挙制度の変更)」を分析するために科学的手法と歴史的手法を併用するよう提言した論文の翻訳。国政選挙のルールを変更する権利を持つのはどの国でも政権与党だが、既存のルールで直近の選挙に勝利した政権与党が、自らに有利なルールを変更する「政治改革」を実施することは世界的にも珍しい現象となっている。原著者はそうした現象に対し歴史的視点を踏まえた分析の必要性を提唱している。
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